花火(実話小説) 19××年8月 
「奴らは花火を見るのに夢中なんだよ」
俺と哲学者(アダ名)は、花火見物人の雑踏を流れに任せて、ゆっくり足を運びながら、そんな事を言っていた。
 田中、朝倉、関口、吉岡等は脱兎の如く走り去り、今は全く俺たちの視界から消え去ってしまっていた。今晩は、両国の隅田川川開き花火大会である。
 日○一高一年に席を置いていた俺たちは、今日は花火だと言うので学校を早退して、気心の知れた親友と連れ立って、花火見物と洒落込んだわけだ。途中柴崎は、頭痛を催したので、このメンバーには加わっていない。

 √ドーン ドドーン ドーン パッ パパッ パッ」
花火は夏の夜空に遠くこだまして、いとも儚く消え去っていく・・・
俺と哲学者は落ち着いたものだった。・・・多くの雑魚共は空を見上げて馬鹿面をさげ、右往左往している。
 「あ〜!馬鹿にしてやがら・・・こんな花火なんか、ひとつも面白くなんかありゃしないっ!まるで子供だましじゃねえかっ!」
 まな板に目鼻を付けたようにノヘーっとしていて、少々まずい造りをしている哲学者は、さもつまらないと言った表情でそんな事を言った。
 「子供だましの花火なんか見る、雑魚共のつらが見てえよ」なんて言ったりして、さも尤もらしく分別顔などを造ったりもした。
 
 雑踏の流れに乗って川端に近づいて来ると、ますます雑魚共のイモ洗いが苛烈を極めて来た。
 √ヒュ〜ン ドド〜ン!パッ ヒュルヒュルヒュル〜ッドド〜ン!!パパッ・・・・ヒュ〜ン ドド〜ン!パッ ヒュルヒュルヒュル〜ッドド〜ン!!パパッ・・・・
 まさに壮観だ!俺たちはしばし足を止めて、恍惚としてそれに目を奪われた。
 「わ〜っ!危ねえっ!危ねえじゃないかっ!そんなに押すね〜この〜っ!!」
 「ンまあ、これはとんだ失礼を・・・」
 「ん?いやいや、お嬢さんでしたか!これはこれは・・・いいえ、いいんですよ。もっと、どんどん押して下さい。身体がつぶれてもいいんですから・・・」
何〜んて喋っている、好色なニキビッ面のあんちゃんもいる。

 俺たちはいよいよ川端にやって来た。
「ここまで来たんだから、仕掛けでも見て行こうや!」
哲学者そう言うと、先程の言葉もどこへやら、夢中になって川面を見つめ始めた。
 √ヒュ〜ン ドド〜ン!パッ ヒュルヒュルヒュル〜ッドド〜ン!!パパッ・・・・ヒュ〜ン ドド〜ン!パッ ヒュルヒュルヒュル〜ッドド〜ン!!パパッドンパッパ・・
 「やった!やった!仕掛けだ〜っ!!」
一瞬、雑魚共は大きくざわめいた。
「見えね〜なっ!」
「ちきしょうっ!随分下でやってやがら〜っ!」
 俺たちは、見えない仕掛け花火に罵り喚いた。こうなると人間と言う動物は勝手なもので、花火なんか子供だましだなんて、もっともらしく偉そうな口を叩いていた俺たちも、馬鹿面さげて喚き始めたものである。
「ちきしょう!見えね〜や!・・・おい、もう帰えろうぜ!」
俺はやけになって吐き出してしまった。哲学者は黙ってニッと笑うと、俺の後から黙って付いて来た。

甘美な香りが心地よく俺の鼻を刺激し、夢の桃源郷へと誘い込んだ。痺れるような触感、そして、それを通して18乙女の清潔な肌触りが感じられた。
俺は、人混みをいい事にうまく使って、ソッと彼女の腰に手をまわした。・・・・・・・・と,
「何すんだね、この人(すと)」
俺はハっとして目を開けた・・・と・・・そこには、目、目、そして、目、少なくとも俺はそう感じた。そして、と見ると、そこには先程の美しい女の子は、もう見当たらなかった。俺の目の錯覚か?もう一度あたりを、ソっと見渡したけど、やっぱりいなかった。
 代わりに、七十婆さんが垢で汚れたワカメの様な着物に、得体の知れない汚物をくっつけて居たからたまらない!
そうすると俺は、先程からこの乞食婆さんにピッタリ寄り添って居た事になる・・・・・・ゲ〜ッ!・・・俺は腹わたを吐き出しそうになった。

「三沢!(仮名)何チョロチョロしてるんだぁ?二十日ネズミでもあるまいし・・・」
「エッ!いやっ!そ、その、何でもないんだ」
なんて、誤魔化したもんである。
 俺たちは、いつか橋の上を歩いていた。いや、揉まれていたと言った方が適切かも知れない。
アメさん(あめりか兵)は女の化け物(娼婦)を抱えて、悠々とパイプをくゆらしている。
 俺と哲学者はボケーっとして指をくわえ、河馬口からよだれを垂らして、アメさんと娼婦の抱擁を見とれていた。そのころ抱擁っていったら、凄っごく珍しいものだった。
「哲学者!どうだい!!」
「馬鹿野郎!そんなの知るか!!」
「やっぱり、なんだな〜!これで戦勝国の人間ともなれば、やる事が違うなー」
俺は息も喘ぎあえぎ、そんな事を言った。
「もう花火は終わりだー、止まらないで、歩け歩け〜!!」
「馬鹿野郎!そんな事抜かす奴は、どこの馬の骨だーっ!前がつかえて歩けね〜この間抜け野郎!!」
 な〜んて、橋の上は大騒動だった。

「早く橋を渡っちゃおうよ」
「ダって、仕掛けが見えないのヨ!」
「馬鹿!橋が落ちたらどうするっ!」
「あたし、うれしいワ!こうして貴方と一緒ならば・・・」
「おーっ!ナイス!!」
な〜んて、少し気になる会話をしている若いアベックもいる。
 「いや〜!参った、参った!!俺たちチョンガーには、目の毒、耳毒、中足毒だよ、ん?」
 元来デリケートで神経過敏な俺は、とうとうこの情景に、ねをあげてしまったのである。
「いや、叶わん!帰ろう、帰ろう!!」
俺と哲学者は、申し合わせたようにそんな事言うと、アタフタと人波を押し分けへし分け、ほうほうの態で、逃げ帰って来た。

                        完

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